JIS Z 9110 介護施設の照度基準一覧
照度の標準値は日本産業規格(JIS)が定めています。屋内の数値は現在、JIS Z 9125:2023(屋内照明基準)に収録されています。JIS Z 9110(照明基準総則)は2024年12月20日の改正で、用途ごとの具体的な数値を持たない総則になりました。以下は旧版 JIS Z 9110:2011 の区分によるもので、介護施設・老人ホーム・特養に適用される主な基準値は以下のとおりです。
| 室・場所 | 推奨照度(lx) | 最低照度(lx) | 均斉度 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 居室(通常時) | 100〜300 | 75 | 1/5以上 | 読書時は300lx以上推奨 |
| 廊下(通常時) | 50〜100 | 20 | 1/5以上 | 夜間は後述の夜間モード値 |
| 廊下(夜間・就寝中) | 1〜5 | 1 | — | 転倒防止・足元灯レベル |
| 食堂・食事室 | 200〜500 | 100 | 1/5以上 | 食品演色性Ra90以上推奨 |
| 浴室・洗面所 | 200〜500 | 100 | 1/5以上 | 防湿型LED必須(IP44以上) |
| 処置室・医務室 | 500〜1000 | 300 | 1/3以上 | Ra90以上・フリッカーフリー必須 |
| リハビリ室 | 300〜750 | 200 | 1/5以上 | 手元作業に対応 |
| エントランス・受付 | 200〜500 | 100 | 1/5以上 | 来客対応・防犯カメラ撮影適性 |
| 階段 | 75〜150 | 30 | — | 踏面に影ができないよう設計 |
| トイレ・便所 | 100〜200 | 75 | — | 人感センサー連動推奨 |
照度測定の方法
照度計(ルクスメーター)を床面から85cm(作業面高さ)に水平に保ち、5点以上計測して平均値を算出します。廊下の均斉度は「最小照度 ÷ 最大照度」で算出し、0.2(1/5)以上であれば合格です。暗部と明部の差が大きい(均斉度が低い)廊下は転倒リスクが高まります。
「2lx」「20lx」は、実際どのくらいの明るさなのか
基準の数字を見ても、それが現場でどう見えるかは想像しにくいものです。ここがいちばん質問をいただく点なので、先に押さえておきます。
警察庁の基準が「何が見えるか」で定義している
警察庁の「安全・安心まちづくり推進要綱」は、照度を「どれくらい離れた人の、何が識別できるか」という形で定義しています。介護施設の夜間照度を決めるときの、いちばん実感に近い物差しです。
| 照度 | 何が見えるか(警察庁の定義) | 介護施設でいうと |
|---|---|---|
| 50lx | 10m先の人の顔・行動が明確に識別でき、誰であるかがはっきり分かる | 廊下の通常時(50〜100lx)の下限あたり |
| 20lx | 10m先の人の顔・行動が識別でき、誰であるかが分かる | 夜間としては明るすぎる。睡眠を妨げる側 |
| 3lx | 4m先の人の挙動・姿勢等が識別できる | 夜間の廊下(1〜5lx)がほぼこの範囲 |
つまり夜間照明の1〜5lxは、「4m先の人が、どんな姿勢でいるかは分かるが、誰なのかまでは分からない」くらいの明るさです。 転倒を防ぐには十分で、かつ目が覚めてしまわない、という線をここで取っています。 逆に20lxまで上げると顔が判別できる明るさになり、夜間としては明るすぎます。 「暗すぎないか心配だから明るくしておく」という判断が、実は入居者の睡眠を妨げている、というのはよくある話です。
身のまわりの明るさと並べてみる
| 場面 | おおよその照度 |
|---|---|
| 晴れた日の屋外(直射日光) | 約100,000lx |
| 曇りの日の屋外 | 約25,000〜32,000lx |
| コンビニ・スーパーの店内 | 約1,000〜2,000lx |
| 事務室(JISの維持照度) | 750lx |
| 介護施設の居室・食堂 | 100〜500lx |
| 街灯のある道 | 約10lx |
| 介護施設の夜間廊下 | 1〜5lx |
| 満月の夜の足元 | 1lx未満 |
出典:警察庁「安全・安心まちづくり推進要綱」に基づく照度基準(パナソニック 屋外用照明器具の解説ページより)、および一般的な照度の目安(2026年8月確認)。屋外の自然光は天候・時刻で大きく変わるため幅があります。
夜間転倒防止照明の設計原則
介護施設での転倒事故の多くは夜間の廊下・トイレへの移動中に発生します。夜間照明の設計で重要な3点を解説します。
1. 夜間2〜5lxの「足元照明」回路を独立させる
廊下の通常照明(50〜100lx)と夜間照明(1〜5lx)は、別回路で制御することが重要です。タイマー制御またはセンサー連動で21時〜6時に夜間モードへ自動切替する設計が標準的です。
足元照明の設置高さは床面から15〜30cmが最適です。高い位置に設置すると眩しく睡眠を妨害するため、幅木(巾木)埋め込み型または床面近くの連続ライン照明が推奨されます。COBテープ+アルミフレームを幅木レベルに設置することで、点光源のない均一な足元照明を実現できます。
2. 影をなくす均一照度設計
点灯位置が一点集中(ダウンライトのみなど)になると、強い影が生じて高齢者が段差と誤認するリスクがあります。均一照度を実現する方法は2通りです。
| 照明方法 | 特徴 | 向いている場所 |
|---|---|---|
| COBテープ連続照明 | 粒感がなく床面を均一に照らす・夜間2lx調光可能 | 廊下・居室床際・階段踏面 |
| 間接照明(天井反射) | グレアが少なく柔らかな光質・影が生じにくい | 居室・食堂・共用ラウンジ |
| ダウンライト+補助照明 | 施工コストが低い・影対策に補助ライン照明が必要 | エントランス・受付 |
3. 人感センサーの活用と注意点
トイレ・洗面所への動線に人感センサー連動照明を設置すると、夜間の急激な明るさ変化を抑えながら安全を確保できます。ただし、センサーのON/OFFの切り替わりが速すぎると高齢者が驚くため、以下の設定が推奨されます。
- 点灯ディレイ:0秒(即時点灯)
- 消灯ディレイ:3〜5分(動作停止後も点灯継続)
- 夜間モード時の明るさ:3〜10lx(フル点灯の10〜20%)
- センサー検知範囲:廊下幅+0.5m以上のカバー
認知症対応の照明設計
昼夜リズムを整える色温度調光
認知症入居者の「夕暮れ症候群」(夕方〜夜に不穏・徘徊が増える症状)は、体内時計の乱れと関連しています。昼光色(5000〜6500K)で昼間の覚醒を促し、夕方以降は電球色(2700〜3000K)に切り替えることで昼夜リズムのサポートが期待できます。
| 時間帯 | 推奨色温度 | 推奨照度 | 目的 |
|---|---|---|---|
| 午前(6〜11時) | 5000〜6500K(昼光色) | 300〜500lx | 覚醒促進・体内時計リセット |
| 午後(11〜17時) | 4000〜5000K(昼白色) | 200〜300lx | 活動維持・食事・リハビリ |
| 夕方(17〜21時) | 2700〜3000K(電球色) | 100〜150lx | 就寝準備・落ち着き促進 |
| 夜間(21〜6時) | 2700K以下 | 1〜5lx(廊下) | 睡眠妨害防止・転倒防止 |
フリッカー(ちらつき)フリーが必須の理由
古い蛍光灯やインバーター方式のLEDは、商用電源の周波数(50/60Hz)に応じてわずかにちらつきます。このフリッカーは通常は目に見えませんが、高齢者・認知症患者・光過敏性を持つ方では、不安感・興奮・頭痛の原因となることが報告されています。
施設照明の選定時は、仕様書の「フリッカー」または「ちらつき」の記載を確認し、Flicker Percent(FP)が5%未満の製品を選ぶことが推奨されます。COBテープ+DC電源構成はACフリッカーが発生しないため、介護施設に適しています。
LED照明の選定基準(介護施設向け)
| 選定項目 | 推奨スペック | 理由 |
|---|---|---|
| 演色性(Ra) | Ra90以上 | 顔色・肌色の変化(発熱・チアノーゼ等)を正確に判断するため |
| フリッカー | FP 5%未満 | 認知症の不穏・興奮を誘発しないため |
| 色温度 | 調光対応(2700〜6500K) | 昼夜リズム調光に対応するため |
| 電源電圧 | DC24V | 長距離廊下配線での電圧降下を抑えるため |
| 防水規格 | 浴室はIP44以上・廊下はIP20 | 浴室の湿気・洗浄水に対応するため |
| 調光方式 | PWM調光(1〜100%) | 夜間2lxまで滑らかに調光するため |
| 寿命 | 40,000時間以上 | 交換頻度を減らし施設管理コストを削減するため |
COBテープ vs チップタイプの使い分け
COBテープ:発光点が連続しており粒感がない。廊下・居室の間接照明・幅木照明に最適。
チップ(SMD)タイプ:発光点が点在するため廊下床面に影が生じやすい。ダウンライト補助には適するが、足元照明には不向き。
LED化の施工手順(廊下・居室)
- 現状の照度計測:照度計で各室・廊下の現状照度を5点計測し、JIS基準との乖離を確認する。
- ゾーン設計:廊下・居室・共用部・夜間照明の4ゾーンに分け、調光回路と通常回路を分離設計する。
- 電源容量計算:使用するLEDテープの総ワット数+20%の安全率でDC電源を選定する。廊下20m@12W/mの場合、20m×12W×1.2=288W以上の電源が必要。
- 配線・施工:DC24Vは長距離配線(10m超)でも電圧降下が少ないため廊下に適している。幅木レベルに溝切り加工してアルミフレームを埋め込むと仕上がりが美しい。
- 調光コントローラー設定:タイマー連動で夜間モード(2〜5lx)と通常モードを自動切替。
- 施工後の照度確認:JIS Z 9110の照度基準値と均斉度を照度計で再計測し、設計値に合致しているかを確認する。
仕様に落とすとこうなる(設計の目安)
ここまでの内容を、実際に発注仕様へ落とし込むときの形にまとめます。数値は設計の目安であり、施設の形状・天井高・既存器具の配置によって変わります。必ず現地で実測して詰めてください。
| 項目 | 目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 光源 | COBテープ(DC24V) | 点光源の粒が出ず、影による段差の誤認を招きにくい |
| 演色性 | Ra90以上 | 顔色・食事・薬の色を正しく見せるため |
| フリッカー | フリッカーフリー品を指定 | ちらつきは高齢者の不快感・体調不良の要因になる |
| 廊下の通常時 | 50〜100lx | JIS Z 9110系の基準に沿う |
| 廊下の夜間 | 1〜5lx(別回路) | 4m先の人の姿勢が分かる明るさ。睡眠を妨げない |
| 足元照明の高さ | 床から15〜30cm | 高いとまぶしく、睡眠を妨げる |
| 夜間モードの切替 | 21時〜6時を自動 | 手動運用にすると必ず切り忘れが出る |
| 色温度 | 朝5000〜5500K/夜2700K | 昼夜のリズムを整えるため(食堂・共用部) |
見積りを取るときは、「廊下の通常回路」と「夜間の足元回路」を別々に書いてもらうのが確実です。 ここが1回路にまとまっていると、あとから夜間だけ落とすことができず、結局どこかの明るさを妥協することになります。
よくある質問
Q. 介護施設の照明明るさ基準(JIS Z 9110)はどのくらいですか?
居室:100〜300lx(読書時300lx以上推奨)、廊下:50〜100lx(夜間1〜5lx)、浴室:200〜500lx、食堂:200〜500lx、処置室:500〜1000lxが標準値です。均斉度(最小照度÷最大照度)は廊下で0.2以上が目安です。
Q. 認知症対応の照明設計で重要なポイントは何ですか?
①昼夜リズム調光(昼は5000〜6500K・夜は2700K)、②フリッカーフリー(FP 5%未満)、③均一照度(影・強コントラストをなくす)の3点が最重要です。特に夕暮れ症候群の抑制には夕方以降の色温度を電球色に切り替える昼夜リズム調光が効果的です。
Q. 廊下の夜間照明は何ルクス(lx)にすればよいですか?
JIS基準では夜間廊下の最低照度は1lxです。ただし実務では転倒防止と睡眠妨害のバランスから、床面での照度2〜5lxが推奨されます。幅木照明(床から15〜30cm)にCOBテープを設置し、PWM調光で全点灯の3〜10%レベルに設定する設計が一般的です。
Q. 蛍光灯からLEDに変えると転倒リスクはどう変わりますか?
均一照度の確保と夜間調光制御の組み合わせにより、転倒リスクの低減が期待できます。実際の施設(680㎡・廊下・居室・共用部をLED化)では夜間転倒インシデントが42%低減した事例があります。蛍光灯は2027年度から製造禁止となるため、早期のLED化計画が施設維持管理上も重要です。
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