「ホテルの客室は何ルクスにすればいいのか」。改修の打合せでよく出る質問ですが、答えを探していくと、意外なところで行き止まります。旅館業の国の要領には、2017年まで場所ごとの照度の表がありました。いまはありません。平成29年(2017年)12月15日の改正で、表ごと削られています。

ネットに出回っている「フロント700ルクス」「客室70ルクス」といった数字の多くは、この削られた表が出どころです。数字そのものは今でも目安として役に立ちます。ただ、見積書や設計書に「旅館業法の基準」と書くと、根拠を問われたときに示せません。この記事では、削られた表の中身と、いまホテル・旅館の照明を実際に縛っている法令とを、分けて整理します。

この記事の立ち位置
法令と国の通知の文面を整理したもので、個別の施設が許可・検査に通るかどうかの判断ではありません。 旅館業の許可は都道府県・保健所設置市の条例と運用、非常用照明は確認検査機関の判断によります。 設計を確定する前に、所管の保健所と確認検査機関に確認してください。

ホテル・旅館の照明にかかる3つの決まり

ホテル・旅館の照明には、目的の違う3つの決まりが重なっています。どれも「ホテルの照度基準」として一緒くたに語られがちですが、守る相手が違います。

守る相手根拠照度の数値
泊まる人の衛生旅館業法施行令 第1条・旅館業における衛生等管理要領(国の通知)・自治体の条例国の文書には無い(2017年に削除)
働く人労働安全衛生規則 第604条(事務室は事務所衛生基準規則)精密な作業300lx以上・普通の作業150lx以上・粗な作業70lx以上
逃げる人建築基準法施行令 第126条の4・第126条の5(非常用の照明装置)停電時に床面1lx以上(蛍光灯・LEDは2lx以上)

数値がはっきり書かれているのは、2つ目と3つ目だけです。いちばん「ホテルらしい」はずの1つ目、つまり泊まる人のための照度に、いまは国の数値がありません。

旅館業法には「何ルクス」が書かれていない

まず法令そのものを見ます。旅館業法施行令 第1条第1項は、旅館・ホテル営業の施設の構造設備の基準を並べています。照明について書かれているのは第3号の1行だけです。

旅館業法施行令 第1条第1項第3号(原文)
「適当な換気、採光、照明、防湿及び排水の設備を有すること。」

「適当な」以上のことは書かれていません。同じ第1条第1項の第8号で、それ以外の基準は都道府県(保健所を設置する市・特別区を含む)が条例で定める、とされています。

この「適当な」を具体的にしてきたのが、厚生労働省の通知「旅館業における衛生等管理要領」です。法令ではなく、国が自治体に示す指導の物差しです。現在の要領は、照明について次のように書いています。

要領の箇所現在の文面(原文)
施設設備の基準 27(採光・照明設備)(2)「照明設備は、施設内のそれぞれの場所で宿泊者の安全衛生上又は業務上の必要な照度を満たすものとすること。」
衛生措置の基準 17(照明)「照明設備は、定期的に照度を測定するなど保守点検を適切に行い、照度不足、故障等が生じた場合は、速やかに取り替え、又は補修すること。また、定期的に清掃し、常に清潔に保つこと。」

「必要な照度」とは書いてあっても、その値は書いてありません。いっぽうで、定期的に照度を測ることははっきり求めています。数値の目標が無いのに測定は求められる、という少し不思議な形です。

2017年に削られた照度の表

改正前の要領では、衛生措置の基準の25(照明)に場所ごとの照度の表が付いていました。2017年12月15日付けの通知(生食発1215第2号)の新旧対照表で、この表には「(削る)」と書かれています。削られた表をそのまま写します。

場所照度(ルクス)測定地点
玄関帳場又はフロント(局部照明の併用可)700〜1,500作業面
玄関、会計事務室、荷物受渡台、客室机(局部照明の併用可)、洗面鏡(局部照明の併用可)300〜700玄関は床面、客室等の机は作業面、洗面鏡は主に対人物鉛直面照度、その他は作業面
宴会場又はホールその他これに類する場所150〜700(舞台照明は含まない)床面
事務室、食堂その他飲食に使用する場所150〜300作業面(約80cmの高さ)
ロビー、便所70〜300床面
娯楽室、脱衣場、客室、階段、廊下70〜150床面
非常階段、廊下30〜70床面
浴室30〜150床面
客室、廊下、階段の夜間専用照明設備1.5〜3床面
上記以外の場所100以上床面から約80cmの高さ

この表には、但し書きが2つ付いていました。1つは、宴会場やホールは営業の性格上、付帯照明設備により20ルクス以上150ルクス以下で照らしても差し支えない、というもの。もう1つは、表の前に置かれた「次の表の照度を有するものであることが望ましいこと」という一文です。

つまり、削られる前から、この表は義務ではなく「望ましい」水準でした。ネットの照度表に今も出てくるのは、この表が国の通知として長く公開されていたからです。

なぜ削られたのか

削除のきっかけは、規制改革推進会議の「旅館業規制の見直しに関する意見」(平成28年12月6日)です。この意見は、旅館業の構造設備の基準のうち、「採光・照明設備の具体的要件」を撤廃すべき規制として、客室の最低数や寝具の種類と並べて挙げていました。2017年の通知は、この意見を踏まえて要領を改正したものです。

改正後の要領では、数値の表が外され「必要な照度を満たすもの」という書き方に置き換わりました。照明が要らなくなったわけではありません。何ルクスにするかを、事業者と自治体が場所ごとに考える形になった、ということです。

いまはどう扱えばよいか

実務では、次の3段で考えると迷いません。

段見るもの扱い
1施設がある自治体の旅館業法施行条例・施行細則・審査基準数値が書かれていれば、それが許可の物差し。自治体によって違うので、必ず開く
2削られた要領の表(上の表)条例に数値が無ければ、設計の目安として使える。ただし「国の基準」とは書かない
3保健所への事前相談図面と照明の計画を持って行き、運用を確かめる

見積書・設計書の書き方に注意。「旅館業法の照度基準によりフロント700ルクス」と書くと、その根拠は2017年に無くなっています。書くなら「旧・旅館業における衛生等管理要領(平成29年改正で削除)の照度表を目安に」「○○市旅館業法施行細則 第○条」のように、何を物差しにしたかを正確に書いてください。

なお、現在の要領でも「定期的に照度を測定する」ことは残っています。目標の数値を自分で決めておかないと、測っても合否が付けられません。開業前に、場所ごとの目標値を一覧にしておくと、保守点検の記録がそのまま使えます。

働く人の照度 — フロント・厨房・事務室

泊まる人のための数値は消えましたが、働く人のための数値は法令に残っています。フロント、厨房、リネン室、事務室など、従業員が常時働く場所には、労働安全衛生規則 第604条がかかります。

作業の区分(第604条)基準ホテル・旅館での例
精密な作業300lx以上フロントでの書類・端末の確認、厨房の盛り付け
普通の作業150lx以上厨房の調理、リネン室の仕分け
粗な作業70lx以上倉庫・バックヤードの出し入れ

例はこの記事の当てはめで、条文にあるのは区分と数値だけです。事務室のように常時事務作業をする部屋には事務所衛生基準規則 第10条が当たり、こちらは2022年12月1日の施行で一般的な事務作業が300lx以上に引き上げられています。

削られた要領の表でフロントが700〜1,500ルクスと高かったのは、宿泊者の受付と書類の扱いが重なる場所だからです。法令の下限は300lxですが、チェックインが集中する時間帯の見やすさを考えると、旧表の水準まで上げておく意味はあります。

逃げる人の照度 — 客室にも非常用照明が要る

3つ目は停電時の避難です。建築基準法施行令 第126条の4は、法別表第一(い)欄の(一)項から(四)項までの用途に使う特殊建築物の居室と、そこから地上に通じる廊下・階段などに、非常用の照明装置を設けるよう求めています。ホテル・旅館はこの特殊建築物に入ります。

同じ条の但し書きに、設置しなくてよい場所が並んでいます。第2号は次のとおりです。

建築基準法施行令 第126条の4 第2号(原文)
「病院の病室、下宿の宿泊室又は寄宿舎の寝室その他これらに類する居室」

この並びに、ホテル・旅館の客室は書かれていません。病院の病室や下宿の宿泊室は外されているのに、ホテルの客室は外されていない。「寝る部屋だから病室と同じだろう」と考えると、ここで食い違います。条文の上では扱いが違うので、客室の照明を入れ替えるときは、非常用照明の位置と台数も一緒に確かめてください。第4号(避難階などで避難上支障がないもの)に当たるかどうかを含め、個々の建物でどう判断されるかは確認検査機関の判断です。

項目建築基準法施行令 第126条の5
照明の方式直接照明
照度床面において1ルクス以上(蛍光灯・LEDは2lx以上)
器具火災で温度が上がっても著しく光度が低下しない構造(国土交通大臣が定めた構造方法)
電源予備電源を設けること

LEDだけ2lxが求められるのは、火災で周囲の温度が上がると蛍光灯もLEDも光束が落ちるためです。白熱灯は温度でほとんど暗くならないので1lxで足ります。客室の照明をLEDに替えるときは、非常用照明は別の器具・別の電源だということを施主に伝えておくと、話がこじれません。LEDテープの間接照明を非常用照明の代わりにはできません。

LEDテープライトが効く場所

削られた表を目安にすると、ホテル・旅館で「明るさの幅」が大きい場所が見えてきます。幅が大きい場所ほど、間接照明と調光で雰囲気を作る余地があります。

場所旧表の目安LEDテープの使いどころ
客室・廊下・階段の夜間1.5〜3lxベッド下・廊下の巾木・階段の段鼻に、ごく弱い足元灯。眠りを妨げず、夜中に起きた人がつまずかない明るさ
客室70〜150lx天井の折り上げ・ヘッドボードの裏に間接照明。電球色(3000K)で落ち着かせ、机には手元灯を足す
ロビー70〜300lx受付カウンターの下、壁の縁に光の線。到着の時間帯と夜で調光を変える
宴会場・ホール150〜700lx(付帯照明で20〜150lxも可とされていた)天井のコーブで全体を明るく、宴の最中は絞る。調光器と組み合わせる
浴室・脱衣場浴室30〜150lx・脱衣場70〜150lx湿気と水がかかる場所は防水仕様の器具が前提。屋内用のテープをそのまま使わない

夜間の足元灯の1.5〜3ルクスは、ふつうの照明では暗すぎて作れない明るさです。COBのLEDテープは光の粒が見えないので、ここまで絞っても線がまだらになりません。調光器で下げて使うときは、テープと電源の間(DC側)に入れる方式なら、電源は通常品で構いません。

また、現在の要領は定期的な照度の測定と、照度不足があれば速やかに取り替えることを求めています。間接照明はつなぎ目が増えるほど、どこか1本が暗くなったときに気づきにくくなります。1系統の長さと電源の位置を図面に残しておくと、点検のときに困りません。

ホテル・旅館の照明改修 チェックリスト

確かめること根拠・見る先
施設がある自治体の条例・細則に、照度の数値があるか旅館業法施行令 第1条第1項第8号(条例への委任)
数値が無ければ、何を目安にしたかを設計書に書いたか旧・衛生等管理要領の照度表(平成29年改正で削除)
場所ごとの目標照度を一覧にしたか(測定の記録に使う)現行の要領 17(照明)「定期的に照度を測定する」
フロント・厨房・事務室が法令の下限を満たすか労働安全衛生規則 第604条/事務所衛生基準規則 第10条
客室・廊下・階段の非常用照明を、照明改修と別に確かめたか建築基準法施行令 第126条の4・第126条の5
非常用照明をLEDに替える場合、床面2lxで器具を選んだか建築基準法施行令 第126条の5
浴室・脱衣場に、屋内用のテープや電源を使っていないか器具の防水等級
夜間の足元灯を、眠りを妨げない明るさに絞れるか旧表の夜間専用照明設備 1.5〜3lx

まとめ

ポイント内容
旅館業法施行令は「適当な照明」とだけ書く。数値は無い
国の要領場所ごとの照度表は2017年12月15日の改正で削除。いまは「必要な照度」と「定期的な測定」
旧表の使い方条例に数値が無ければ目安として使える。「国の基準」とは書かない
働く人労働安全衛生規則 第604条(300・150・70lx)は今も法令
非常用照明ホテル・旅館の客室は免除の並びに無い。床面1lx(蛍光灯・LEDは2lx)

ホテル・旅館の照度は、「国が決めた数値に合わせる」話から、「自分で目標を決めて、測って守る」話に変わりました。数値が消えたぶん、設計した人の考えがそのまま空間に出ます。削られた表は、その目標を決めるときの出発点として使ってください。

出典:旅館業法施行令(昭和32年政令第152号)第1条、建築基準法施行令 第126条の4・第126条の5、労働安全衛生規則 第604条(いずれも e-Gov 法令検索の条文)/「旅館業における衛生等管理要領の改正について」(平成29年12月15日 生食発1215第2号 厚生労働省大臣官房生活衛生・食品安全審議官通知)の別添の新旧対照表/規制改革推進会議「旅館業規制の見直しに関する意見」(平成28年12月6日)。2026年10月7日に原文を確認しています。

よくある質問(FAQ)

ホテル・旅館の客室の照度基準は何ルクスですか?
いまの国の文書に、客室の照度の数値はありません。旅館業法施行令 第1条は「適当な換気、採光、照明…の設備を有すること」とだけ書き、厚生労働省の「旅館業における衛生等管理要領」も「宿泊者の安全衛生上又は業務上の必要な照度を満たすもの」としか書いていません。2017年12月15日の改正前の要領には照度の表があり、客室・階段・廊下は70〜150ルクス(床面)、客室の机は300〜700ルクス(作業面)とされていました。この表は削除されていますが、自治体の条例に数値が無い場合の設計の目安として使えます。
「フロント700ルクス」という数字は今も有効ですか?
法令や現行の国の通知の数値としては有効ではありません。フロント(玄関帳場)700〜1,500ルクスは、平成29年(2017年)12月15日の改正で削られた旧・衛生等管理要領の照度表の値です。改正前もこの表は「望ましい」水準でした。目安として使うのは構いませんが、見積書や設計書には「旧要領の表を目安にした」と書き、旅館業法の基準とは書かないでください。働く人の側では、労働安全衛生規則 第604条により精密な作業300lx以上・普通の作業150lx以上・粗な作業70lx以上が今も義務です。
国の照度の表はなぜ削除されたのですか?
規制改革推進会議の「旅館業規制の見直しに関する意見」(平成28年12月6日)が、旅館業の構造設備の基準のうち「採光・照明設備の具体的要件」を、客室の最低数や寝具の種類などと並べて撤廃すべき規制に挙げたためです。厚生労働省はこれを踏まえて、2017年12月15日付けの通知(生食発1215第2号)で要領を改正し、照度の表に「削る」としました。改正後も、照明設備を定期的に点検し照度を測定することは求められています。
ホテルの客室にも非常用照明は必要ですか?
建築基準法施行令 第126条の4は、ホテル・旅館を含む特殊建築物の居室と、そこから地上に通じる廊下・階段などに非常用の照明装置を求めています。設置しなくてよい場所を並べた同条第2号は「病院の病室、下宿の宿泊室又は寄宿舎の寝室その他これらに類する居室」で、ホテル・旅館の客室はこの並びに書かれていません。照度は第126条の5で床面1ルクス以上(蛍光灯・LEDは2lx以上)です。避難階などの扱い(第4号)を含め、個々の建物の判断は確認検査機関に確かめてください。
客室の足元灯はどのくらいの明るさにすればよいですか?
法令の数値はありません。削除された旧・衛生等管理要領の照度表では、客室・廊下・階段の夜間専用照明設備が床面で1.5〜3ルクスとされていました。眠りを妨げず、夜中に起きた人がつまずかない程度の明るさです。ふつうの照明器具ではここまで暗くすると光がまだらになりやすいので、光の粒が見えないCOBのLEDテープをベッド下や巾木に入れ、調光器で絞る方法がよく合います。なお足元灯は非常用照明の代わりにはなりません。

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