病院のLED化の見積を出すとき、施主や設計事務所から必ず聞かれるのが「診察室は何ルクス必要ですか」「根拠は何ですか」です。工場なら労働安全衛生規則、事務所なら事務所衛生基準規則、学校なら文部科学省告示。ところが病院には、部屋ごとの照度を定めた法令が存在しません。医療法にも、医療法施行規則にも、照度の数値は一つも書かれていません。

それでも病院が照度の縛りから自由なわけではありません。医療法とは別の系統から、2つの法令が確実にかかってきます。そして「診察室500lx」「病室100lx」といった、よく見かける数値のほうは法令ではなくJIS(日本産業規格)の推奨値で、しかもその参照先が2024年の改正で変わりました。この記事では、根拠を3つの層に分けて整理します。

この記事が使う根拠
①医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)の条文、②労働安全衛生規則 第604条、③建築基準法施行令 第126条の4・第126条の5、の条文にあたって確認しています。JISの数値は条文ではないため、出典を示したうえで「推奨値」として扱っています。

病院には、部屋ごとの照度を定めた法令が無い

照度の根拠になる法令は、施設の種類ごとに別々の系統から出ています。同じ「300lx」という数字でも、出どころが違えば義務の重さも、測る場所も、検査の頻度も変わります。病院だけが、この表の中で空欄になります。

施設部屋ごとの照度を定めた法令性格
工場・作業場労働安全衛生規則 第604条働く人を守るための最低照度(義務)
事務所事務所衛生基準規則 第10条同上
学校学校保健安全法 → 学校環境衛生基準(文部科学省告示)児童生徒の学習環境を保つ基準
病院・診療所無し(医療法・医療法施行規則に照度の規定は無い)

医療法施行規則の第16条は「病院の構造設備の基準」を定めた条で、病室の床面積、廊下の幅、換気、採光といった項目が並びます。しかし照度(ルクス)の数値は、この条にも、規則のどこにも出てきません。調剤所について「冷暗所を設けること」という規定はありますが、これは明るさの基準ではなく保管条件の話です。

「医療法で決まっています」と書かないでください。見積書や仕様書に照度の根拠として医療法を挙げると、条文を示せと言われた時に出せません。病院で照度の根拠になるのは、次に挙げる2つの法令か、法令ではないJISのどちらかです。

病院にかかってくる法令は2つだけ

病院に部屋ごとの照度基準は無いかわりに、まったく別の目的から2つの法令がかかります。守る対象が「働く人」か「逃げる人」かで分かれている、と覚えると整理しやすくなります。

① 働く人のための照度 — 労働安全衛生規則 第604条

病院も、そこで働く職員から見れば事業場です。労働安全衛生規則 第604条は、事業者に対して作業面の照度を定めています。作業の区分は3つです。

作業の区分基準(作業面)病院でいうと
精密な作業300 lx 以上検査・処置・調剤
普通の作業150 lx 以上一般の看護業務
粗な作業70 lx 以上運搬・倉庫・機械室

注意したいのは、この数値が「部屋」ではなく「作業面」にかかることです。病室の床が何ルクスかではなく、そこで職員が行う作業の面が何ルクスかを見ます。

同じ病院の中で、当たる規則が2つに分かれます。診察室・処置室・病棟のように診療の作業をする場所は上の安衛則604条ですが、医事課・事務室・院長室のように常時そこで事務作業をしている部屋は、事務所衛生基準規則 第10条が当たります。そして2022年(令和4年)12月1日の施行で数値が変わったのは、事務所則のほうだけです。

当たる規則区分基準
労働安全衛生規則 第604条
(診療・作業の場所)
精密な作業300 lx 以上
普通の作業150 lx 以上
粗な作業70 lx 以上
事務所衛生基準規則 第10条
(事務室・医事課)
2022年12月1日から
一般的な事務作業300 lx 以上
付随的な事務作業150 lx 以上

事務所則の側は、改正前の「一般的な事務作業150lx以上」から300lx以上へ引き上げられています。病院のLED化で医事課や事務室も一緒に更新するとき、ここだけ古い基準で設計すると足りなくなります。同じ考え方はJIS Z 9110(照明基準総則)とオフィスの照度基準で詳しく扱っています。

実務での使い方
この604条は「下限」であって、設計目標ではありません。診察室を300lxで設計すると法令は満たしますが、実際の診察には足りません。法令は床、設計はJIS、という二階建てで考えます。

② 逃げる人のための照度 — 建築基準法施行令 第126条の5

停電時に避難できる明るさを確保するのが非常用の照明装置です。建築基準法施行令 第126条の5が構造を定めており、照度の数値はここに出てきます。

光源床面で確保すべき照度
白熱灯1 lx 以上
蛍光灯・LED2 lx 以上

LEDだけ倍の数値が要求されるのは、意地悪をしているわけではありません。火災で周囲の温度が上がると、蛍光灯もLEDも光束が落ちるからです。白熱灯は温度が上がっても明るさがほとんど変わりません。そのぶんの余裕を、あらかじめ数値に織り込んであります。LED化の際にここを見落として、白熱灯時代の1lxで器具を選定すると、確認検査で指摘されます。

非常用照明(建築基準法)と誘導灯(消防法)は別物です。目的も、所管する法律も、点検の制度も違います。非常用照明は「避難するための明るさ」を建築基準法が求めるもの、誘導灯は「出口の位置を示す」ために消防法が求めるものです。どちらか一方を付けたから他方が要らない、という関係にはなりません。

病室だけ、非常用照明の設置が免除されている

ここが病院の照明でいちばん誤解されている点です。建築基準法施行令 第126条の4は、非常用の照明装置を設置しなくてよい部分を列挙していますが、その第2号に「病院の病室」が挙がっています

建築基準法施行令 第126条の4(抜粋)
第2号:「病院の病室、下宿の宿泊室又は寄宿舎の寝室その他これらに類する居室」

第126条の4で免除されるのは、大きく次の4つです。

免除される部分
第1号一戸建の住宅、長屋・共同住宅の住戸
第2号病院の病室、下宿の宿泊室、寄宿舎の寝室 ほか
第3号学校等
第4号避難階・その直上直下階の居室で、避難上支障がないもの

免除されるのは病室そのものだけで、病棟の廊下・階段・ホールは対象外です。停電時、病室の中は暗くても、そこから出た先の経路は2lx以上で照らされている、という設計になります。病室が免除されるのは「居室の中にいる人は、その部屋の出口の位置を知っている」という考え方によるもので、住宅の居室が免除されるのと同じ理屈です。

免除=何も要らない、ではありません。夜間の病室・廊下には、転倒防止と睡眠の両立という別の要求があります。法令上の義務はなくても、足元灯を入れる設計が一般的です。ここは介護施設・高齢者の照明と明るさ基準で扱っている、1〜5lxの考え方がそのまま使えます。

「診察室500lx・病室100lx」はどこから来た数値か

検索して出てくる病院の照度表は、ほぼすべてJIS(日本産業規格)由来です。JISは任意の規格で、守らなくても違法にはなりません。ただし設計・見積の実務では事実上の共通言語になっているため、根拠として書くこと自体は正しい扱いです。

広く引用されている代表的な数値は、次のあたりです。

場所維持照度の目安
手術室(室内の一般照明)1,000 lx
救急室・処置室1,000 lx
診察室500 lx
一般検査室500 lx
待合室200 lx
病室100 lx
眼底検査室75 lx

出典:JIS Z 9110/Z 9125に基づく推奨照度として公開されている一覧(2026年9月確認)。JIS規格票そのものは有償で、本表は規格票の転載ではありません。設計書に根拠として記載する場合は、必ず最新の規格票で該当表を確認してください。

手術室の1,000lxは「室内の一般照明」の値で、手術野そのものの明るさではありません。手術野は無影灯が受け持ち、一般照明の基準の対象外として、桁違いに大きな数値(旧版のJISでは手術台上直径30cmの範囲で20,000lx以上)が別に定められています。見積書で「手術室1,000lx」とだけ書くと、無影灯を含んだ話だと誤解されることがあります。

2024年の改正で、見るべき規格が変わった

ここを知らずに古い表を引くと、設計書の根拠表記が古いまま残ります。JIS Z 9110は2024年の改正で「照明基準総則」=一般原則だけを扱う規格になり、屋内の個別分野の数値はJIS Z 9125:2023(屋内照明基準)へ移りました。

時期病院の照度を見る規格
〜2011年版までJIS Z 9110(照度基準総則)に施設別の表が載っていた
2024年改正以降屋内はJIS Z 9125:2023。JIS Z 9110:2024は一般原則(照度段階・演色性・均斉度など)

2024年の改正では、照度段階が「1〜20,000lxの25段階」から「最小0.5lx・最大10,000lx」に変わり、平均演色評価数(Ra)の最小値が20に設定され、非常用照明については建築基準法・消防法に従う旨が明示されました。

ネット上の病院の照度表には、1979年版がいまも流通しています。実際に、JIS Z 9110-1979を出典として明記した病院の照度基準表が、現在もPDFで配布されています。数値そのものは大きく動いていませんが、設計書・仕様書に根拠を書くときは版がそのまま信頼性になります。「JIS Z 9110による」とだけ書くのではなく、屋内の数値なら「JIS Z 9125:2023による」と書くのが2026年時点では正しい表記です。

病院で照度より先に効くのは「演色性」

照度を満たしても苦情が出る、という相談が病院では多く、その原因はたいてい照度ではなく演色性(Ra)です。皮膚の色、粘膜の色、血液の色、検体の色——医療の現場は、色で判断する場面の塊です。

場所演色性の目安理由
診察室・処置室Ra90 以上顔色・皮膚・粘膜の色で判断する
手術室Ra90 以上組織と血液の色の差を見る
検査室Ra90 以上検体・試薬の色を見る
待合室・廊下Ra80 以上一般的な用途

特に赤の再現性(R9)は、Ra(R1〜R8の平均)に含まれません。血液・粘膜・皮膚の色が関わる場所では、Raの数値だけでなくR9の記載があるかをメーカーのデータシートで確認してください。この考え方はCRIとRaの違い・Ra80とRa90の使い分けに詳しくまとめています。

LEDテープライトが病院で役に立つ場所

ここまでの数値は、天井の主照明(ベースライト)の話です。LEDテープライトは主照明の代わりにはなりません。そのうえで、病院で効く場所ははっきりしています。

場所使い方ねらい
病室の足元ベッド下・巾木上に低い位置で夜間の転倒防止。天井灯を点けずに済む
病棟の廊下(夜間)手すり下・壁の低い位置まぶしさを抑えて経路だけ示す
ナースステーションカウンター下・棚下の手元灯記録作業の手元照度を足す
待合室天井コーブ・カウンター下の間接照明緊張を和らげる。直接グレアを避ける
受付・サイン壁面の垂直面照明案内表示を読みやすくする

先に「できないこと」から。当店で扱っているテープライトはIP20の屋内専用で、防水・防湿仕様ではありません。浴室・洗浄室・清拭室のような水がかかる場所には使えません。また医療機器ではないため、手術野の照明や診断用の光源としては使えません。清掃・消毒の薬品が直接かかる場所も避けてください。

病院のLED化 チェックリスト

#確認すること見る場所
1照度の根拠を「法令」と「JIS」に分けて書いたか見積書・仕様書
2JISの版を「JIS Z 9125:2023」と書いたか(屋内の数値の場合)同上
3職員の作業面が安衛則604条(精密300lx/普通150lx/粗70lx)を満たすか診察室・処置室・ナースステーション
4院内の事務室は事務所衛生基準規則 第10条(一般事務300lx以上・2022年12月1日〜)で見たか医事課・事務室
5非常用照明をLEDにした場合、床面2lx以上で選定したか廊下・階段・ホール
6病室が免除されることと、病棟の廊下が対象であることを分けたか図面の非常用照明の配置
7診察室・処置室・手術室にRa90以上を指定したか器具の仕様
8血液・粘膜が関わる場所でR9の記載を確認したかメーカーのデータシート
9夜間の病室・廊下の足元照明を計画したか回路分け・調光
10水がかかる場所にIP20のテープを入れていないか浴室・洗浄室・清拭室

まとめ

病院の照度は、3つの層に分けると迷いません。

根拠守らないと
働く人労働安全衛生規則 第604条(精密300lx/普通150lx/粗70lx)・事務室は事務所衛生基準規則 第10条(一般事務300lx/付随150lx・2022年12月1日〜)法令違反
逃げる人建築基準法施行令 第126条の5(LEDは床面2lx以上)/第126条の4第2号で病室は免除法令違反・検査で指摘
使う人JIS Z 9125:2023(診察室500lx・病室100lxなど)+演色性Ra90以上違法ではないが、使いにくい・苦情が出る

「医療法に照度の規定がある」と書かないこと、JISの版を2023年版で書くこと、そして非常用照明をLEDにしたら2lxで選定すること。この3つを外さなければ、根拠を聞かれて詰まることはありません。

よくある質問(FAQ)

病院の照度は法律で決まっていますか?
部屋ごとの照度を定めた法令はありません。医療法にも医療法施行規則にも、照度(ルクス)の数値は書かれていません。病院にかかるのは、①働く人のための労働安全衛生規則 第604条(精密な作業300lx以上・普通の作業150lx以上・粗な作業70lx以上)と、②避難のための建築基準法施行令 第126条の5(非常用照明は床面で白熱灯1lx以上・蛍光灯/LEDは2lx以上)の2つだけです。なお医事課・事務室のように常時そこで事務作業をする部屋は事務所衛生基準規則 第10条が当たり、こちらは2022年12月1日の施行で一般的な事務作業が300lx以上に引き上げられています。「診察室500lx」「病室100lx」といった数値はJISの推奨値で、法令ではありません。
病室に非常用照明は必要ですか?
建築基準法施行令 第126条の4 第2号で、病院の病室は非常用の照明装置の設置が免除されています(下宿の宿泊室、寄宿舎の寝室も同じ号に並んでいます)。ただし免除されるのは病室そのものだけで、病棟の廊下・階段・ホールは対象外です。停電時、病室の中は暗くても、そこから出た先の避難経路は床面2lx以上(LEDの場合)で照らされている、という設計になります。なお法令上の義務がないことと、夜間の転倒防止のために足元灯を入れることは別の話です。
非常用照明をLEDにすると2lx必要なのはなぜですか?白熱灯の2倍です。
火災で周囲の温度が上がると、蛍光灯とLEDは光束(明るさ)が落ちるためです。白熱灯は温度が上がっても明るさがほとんど変わらないので1lxで足りますが、蛍光灯・LEDはその低下分をあらかじめ見込んで2lxが求められています。白熱灯時代の1lxのまま器具を選定してLED化すると、確認検査で指摘されます。
診察室の照度は、JISのどの規格を見ればよいですか?
2026年現在、屋内の照度はJIS Z 9125:2023(屋内照明基準)を見ます。JIS Z 9110は2024年の改正で「照明基準総則」=一般原則(照度段階・演色性・均斉度など)を扱う規格になり、施設ごとの個別の数値はJIS Z 9125に移りました。検索して出てくる病院の照度表には、JIS Z 9110の2011年版どころか1979年版を出典に明記したものまで流通しています。数値そのものは大きく動いていませんが、設計書や仕様書に根拠を書くときは「JIS Z 9125:2023による」と版まで書いてください。
病室や診察室にLEDテープライトを使えますか?
主照明(天井のベースライト)の代わりにはなりませんが、補助照明としては有効です。病室ではベッド下や巾木上に低い位置で入れて夜間の足元灯に、ナースステーションではカウンター下の手元灯に、待合室では天井コーブの間接照明に使われます。ただし当店で扱っているテープライトはIP20の屋内専用で防水・防湿仕様ではないため、浴室・洗浄室・清拭室のような水がかかる場所には使えません。また医療機器ではないので、手術野の照明や診断用の光源としては使えません。診察室・処置室で使う場合は演色性Ra90以上のものを選んでください。

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