学校の蛍光灯をLEDに替えるとき、まず聞かれるのが「教室は何ルクス必要か」です。工場なら労働安全衛生規則、事務所なら事務所衛生基準規則。ところが学校はどちらでもありません。根拠は学校保健安全法に基づく文部科学省告示「学校環境衛生基準」で、数値も測り方も検査の回数も、この告示に書かれています。

そして体育館になると話が変わります。体育館の照度は、この告示に数値が一つも書かれていません。「その他の場所はJISに適合すること」と書かれているだけです。さらにそのJISが2024年12月に改正され、参照先から屋内の数値が抜けました。この記事では、告示の条文をそのまま並べたうえで、体育館をどう扱えばよいかまで整理します。

この記事が使う根拠
文部科学省が公表している学校環境衛生基準(令和8年2月27日 文部科学省告示第35号の改正を反映した版)の条文から、照度・まぶしさに関する規定をそのまま引用しています。数値の表記・単位・「望ましい」といった語尾は条文のままです。

学校の照度は、工場とも事務所とも別の法律で決まる

照度の根拠になる法令は、施設の種類で分かれています。同じ「300lx」という数字が出てきても、出どころが違えば義務の重さも、測る場所も変わります。

施設根拠性格
工場・作業場労働安全衛生規則 第604条労働者を守るための最低照度(義務)
事務所事務所衛生基準規則同上
学校学校保健安全法 第6条 → 学校環境衛生基準(文部科学省告示)児童生徒等の学習環境を保つための基準
いずれも共通JIS(日本産業規格)設計上の推奨。法令ではない

学校環境衛生基準の対象は、幼稚園・小学校・中学校・高等学校など学校教育法が定める学校です。照度は「第1 教室等の環境に係る学校環境衛生基準」のうち採光及び照明の区分に、検査項目(10)照度・(11)まぶしさとして置かれています。

語尾で義務の重さが変わります。条文には「〜とする」「〜こと」と「〜が望ましい」の2種類があります。前者は満たすべき基準、後者は目標です。見積書や報告書に「基準を満たします」と書くときは、どちらの語尾の数値を指しているのかを揃えておかないと、後で話が食い違います。

学校環境衛生基準 照度・まぶしさの全数値

条文に出てくる照度の数値は、次の7つだけです。これ以外の場所の数値は、告示の中には存在しません。

場所・対象基準条文の語尾
教室及びそれに準ずる場所300 lx(下限値)とする
教室及び黒板500 lx 以上望ましい
教室及び黒板の最大照度と最小照度の比20:1 を超えないこと
同上10:1 を超えない望ましい
コンピュータを使用する教室等の机上500〜1000 lx 程度望ましい
テレビやコンピュータ等の画面の垂直面照度100〜500 lx 程度望ましい
その他の場所JIS Z 9110 に規定する学校施設の人工照明の照度基準に適合こと
屋内プールの水平面照度
(第4 水泳プールに係る基準)
200 lx 以上望ましい

まぶしさ(検査項目(11))は数値ではなく、状態で書かれています。

  • 児童生徒等から見て、黒板の外側15°以内の範囲に輝きの強い光源(昼光の場合は窓)がないこと
  • 見え方を妨害するような光沢が、黒板面及び机上面にないこと
  • 見え方を妨害するような電灯や明るい窓等が、テレビ及びコンピュータ等の画面に映じていないこと

加えて「第5 日常における環境衛生に係る学校環境衛生基準」には、毎授業日の点検として「黒板面に光るような箇所がないこと」が入っています。年2回の定期検査とは別に、毎日見る項目です。

体育館の照度は、告示のどこにも書かれていない

ここが学校のLED化でいちばん揉めるところです。表の7行目を、もう一度見てください。

(オ) その他の場所における照度は、産業標準化法に基づく日本産業規格 Z9110 に規定する学校施設の人工照明の照度基準に適合すること。

体育館・特別教室・廊下・階段・保健室――教室と黒板以外は、すべてこの一行に集約されています。告示は数値を持たず、JIS Z 9110 に渡している。ところが、その渡し先が動きました。

JIS Z 9110:2024 の改正で、参照先から数値が抜けた

JIS Z 9110(照明基準総則)は2024年12月20日に改正されました。この改正で、個別分野の規格と重複していた照明要求事項が削除されています。

移った先内容
JIS Z 9125:2023屋内照明基準。事務室・工場・学校・病院・店舗など屋内の維持照度はこちらへ
JIS Z 9126屋外照明
JIS Z 9127スポーツ照明

つまり告示が名指ししている「JIS Z 9110 に規定する学校施設の人工照明の照度基準」は、改正後の Z 9110 には載っていません。学校施設の屋内の数値は Z 9125:2023 に、競技を行う体育館の要求事項は Z 9127 の側にあります。

実務ではこう扱います。「JIS Z 9110 に何ルクスと書いてあるか」を探しても、いまの版には出てきません。体育館の照度を決めるときは、①JIS Z 9125:2023(屋内照明基準)の学校の区分、②競技を行うならJIS Z 9127(スポーツ照明)、③自治体・教育委員会の設計基準や学校施設整備指針――の順で確認し、最終的には発注者が指定する基準を書面で押さえてください。JISは有償規格なので、数値そのものは日本規格協会などで正規に入手した版で確認します。

ここを曖昧にしたまま器具を選ぶと、引き渡し前の照度測定で足りず、器具の追加や配光の変更になります。見積の段階で「どの規格のどの区分で設計したか」を一行書いておくだけで、後の争いがなくなります。

測り方まで条文で決まっている

学校の照度は「明るくなった気がする」では通りません。測る道具も、測る場所も、回数も条文にあります。

照度計は JIS C 1609-1 に適合するもの

条文は「日本産業規格C1609-1 に規定する照度計の規格に適合する照度計を用いて測定する」と書いています。スマートフォンの照度計アプリや、規格に適合しない簡易計の値は、検査の記録には使えません。

測る場所は、対象ごとに違う

対象測る場所記録の仕方
教室図に示す9か所に最も近い児童生徒等の机上最大照度・最小照度で示す
黒板図に示す9か所の垂直面照度最大照度・最小照度で示す
教室以外床上75cm の水平照度
体育施設・幼稚園等それぞれの実態に即して測定する
測る場所は3種類ある(学校環境衛生基準 検査方法) ① 教室 … 9か所に最も近い机の上 黒 板 最大照度と最小照度を記録する ② 黒板 … 9か所の垂直面照度 板の面に垂直に受ける明るさ (床ではなく縦の面で測る) ③ 教室以外 … 床上75cm 水平照度をここで測る 75cm 体育施設・幼稚園等は 「実態に即して測定する」 学校環境衛生基準(文部科学省告示)検査項目(10)照度 の方法欄より作図。照度計は JIS C 1609-1 適合品を用いる。
教室は机の上、黒板は縦の面、それ以外は床上75cm。同じ部屋でも対象で測る高さが変わる。

検査は毎学年2回

照度(10)とまぶしさ(11)は、毎学年2回、定期に検査すると定められています(換気・温度・騒音なども同じ2回の組)。LED化の工事をした年は、工事後の回で数値が変わるので、施工前の記録を残しておくと効果を説明しやすくなります。

LED化でいちばん引っかかるのは「20:1」

300lxも500lxも、器具を足せば届きます。現場で落ちるのは最大照度と最小照度の比のほうです。これは平均値ではなく、その教室のいちばん明るい点といちばん暗い点の比を見ます。1か所でも跳ね上がれば比が崩れます。

平均が足りていても、比で外れることがある lx 10000 3000 1000 下限 300 lx 最大 6,500 lx 900 lx 最小 310 lx 窓際 中央列 廊下側 どの列も下限 300 lx は満たしている。それでも 6,500 ÷ 310 = 約 21.0 で、 「20:1 を超えないこと」に外れる。効いているのは足りない側ではなく、窓際の側。 ※縦は対数目盛り。数値は比の考え方を示すための例で、実際の値は教室ごとに測定してください。
比を崩すのは、たいてい足りない側ではなく明るすぎる側。窓際と黒板前が跳ねやすい。

蛍光灯からLEDへ1対1で置き換えたときに比が悪化するのは、配光が変わるからです。40W直管2灯の器具は光が広く回りますが、同じ位置に配光の狭いLED器具を付けると直下だけが跳ね上がり、器具と器具の間が落ちます。台数を減らす提案をすると、なおさら比が開きます。

  • 台数を減らさない。「明るくなるから半分に」は比を壊す近道です
  • 広配光を選ぶ。天井高が3m前後の教室では、狭角配光は不利に働きます
  • 窓側は調光で落とす。昼光が入る列だけ下げられると、比が一気に収まります
  • 測るのは昼間。検査は実使用の状態で行うので、カーテンを閉め切った数値では判断できません

黒板まわりは「15°」で器具の位置が縛られる

黒板の照度を上げようとして、黒板の手前に明るい器具を増やすと、まぶしさの条件に当たることがあります。条文は児童生徒等の側から見た角度で書かれています。

児童生徒等から見て、黒板の外側15°以内に輝きの強い光源がないこと 黒 板 黒板の外側15°以内の範囲 ← ここに輝きの強い光源を置かない → 裸の光源 この帯の中に入れない ・輝きの強い照明器具 ・昼光の場合はも含む あわせて条文にあるもの ・黒板面と机上面に  光沢を作らないこと ・画面に電灯や窓が  映じていないこと ★15°は児童生徒等の目から見た角度なので、帯の実際の広さは座席の位置で変わる。この図は範囲の意味を示す模式図。
黒板の垂直面照度を上げる器具ほど、置き場所がこの条件に当たりやすい。

黒板の垂直面で500lxを狙いつつ、光源そのものは見せない。これを両立させるには、光源が直接目に入らない配置と、黒板面で反射したグレアを作らない角度の2つを同時に満たす必要があります。条文が「黒板面及び机上面に光沢がないこと」まで書いているのは、反射側でも起きるからです。

テープライトが役に立つのは、主照明ではなく垂直面と掲示物

教室の主照明はベースライトの仕事です。COBテープライトが効くのは、黒板の上端や掲示板の上に細く入れて、縦の面だけを起こす使い方です。粒が見えないCOBなら発光部が線になるので、光源が点として視界に入りにくくなります。アルミフレームと乳白カバーを併せると、さらに直視しにくくなります。

設計のとき押さえる数字
当店のCOBテープライトは約12W/m(1巻5mで約60W)です。黒板幅3.6mに1本流すなら約43W、電源は余裕を見て定格の8割で選びます。カットは50mm単位なので、黒板の実寸に合わせて端数を詰められます。必要な本数と電源の台数はLEDテープ計算ツールで出せます。

学校のLED化 チェックリスト

  • 教室の下限300lxと、望ましい500lxのどちらで設計するかを発注者と決めたか
  • 最大照度と最小照度の比を20:1以内(できれば10:1以内)で成立させられる配置か
  • 窓側の列を昼光込みで見積もったか。調光の余地はあるか
  • 黒板の垂直面で500lxを狙う器具を用意したか(水平面とは別)
  • その器具が黒板の外側15°の範囲に入っていないか
  • 黒板面・机上面に光沢の映り込みが出ない角度か
  • コンピュータ教室は机上500〜1000lx、画面の垂直面100〜500lxを分けて考えたか
  • 体育館・特別教室は、どの規格のどの区分で設計するかを書面で確認したか
  • 照度計はJIS C 1609-1 適合品か。アプリで代用していないか
  • 施工の照度を記録したか(毎学年2回の検査で比較される)

まとめ

  • 学校の照度の根拠は学校環境衛生基準(文部科学省告示)。工場の安衛則とも事務所則とも別
  • 数値は教室300lx(下限)/教室・黒板500lx以上(望ましい)/比20:1(望ましくは10:1)/コンピュータ教室の机上500〜1000lx/画面の垂直面100〜500lx/屋内プール200lx以上の7つだけ
  • 体育館の数値は告示に無い。「その他の場所はJIS Z 9110へ」とされているが、そのZ 9110は2024年12月20日の改正で屋内の数値をZ 9125:2023へ、スポーツ照明をZ 9127へ移して削除している
  • 測り方も条文にある。JIS C 1609-1適合の照度計/教室は9か所の机上/黒板は9か所の垂直面/教室以外は床上75cm/体育施設は実態に即して/毎学年2回
  • LED化で落ちるのは明るさよりも。台数を減らさず、広配光を選び、窓側は落とす

よくある質問(FAQ)

学校の教室は何ルクス必要ですか?
学校環境衛生基準(文部科学省告示)では、教室及びそれに準ずる場所の照度の下限値は300lx(ルクス)とされ、教室及び黒板の照度は500lx以上であることが望ましいとされています。300lxは「下限値」、500lxは「望ましい」という語尾の違いがあるため、設計書や報告書でどちらを根拠にしたのかを明示してください。コンピュータを使用する教室等の机上は500〜1000lx程度、テレビやコンピュータ等の画面の垂直面照度は100〜500lx程度が望ましいとされています。
体育館の照度基準は何ルクスですか?
学校環境衛生基準の条文には、体育館の照度の数値は書かれていません。教室と黒板以外は「その他の場所における照度は、日本産業規格Z9110に規定する学校施設の人工照明の照度基準に適合すること」とされ、JISに委ねられています。ただしJIS Z 9110は2024年12月20日に改正され、屋内の具体的な照度はJIS Z 9125:2023(屋内照明基準)へ、スポーツ照明はJIS Z 9127へ移されて削除されました。そのため体育館の数値は、Z 9125:2023の学校の区分、競技を行う場合はZ 9127、および自治体・教育委員会の設計基準で確認する必要があります。
学校の照度はどこで測ればよいですか?
条文で測定方法まで決まっています。照度計はJIS C1609-1に規定する照度計の規格に適合するものを使います。教室は図に示す9か所に最も近い児童生徒等の机上で測り、その最大照度と最小照度で示します。黒板は9か所の垂直面照度です。教室以外は床上75cmの水平照度、体育施設及び幼稚園等はそれぞれの実態に即して測定するとされています。照度とまぶしさは毎学年2回、定期に検査します。
蛍光灯からLEDに替えると、照度基準を満たせなくなることはありますか?
あります。落ちやすいのは平均の明るさではなく「教室及び黒板のそれぞれの最大照度と最小照度の比は20:1を超えないこと(10:1を超えないことが望ましい)」の条件です。配光の狭いLED器具に1対1で置き換えると直下だけが跳ね上がり、器具の間が落ちて比が開きます。台数を減らす提案をするとさらに悪化します。検査は昼光が入った実使用の状態で行うため、窓側の列は特に最大照度が上がります。広配光を選ぶ、台数を減らさない、窓側は調光で落とす、の3つで収めるのが基本です。

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