飲食店の照明は「暗くして雰囲気を出す」方向に振られがちです。ところが飲食店の照度は、性格のまったく違う3つの法律から同時に縛られています。しかもそのうち1つは、明るさの下限ではなく「暗くしすぎると許可が要る」という珍しい形の規制です。

間接照明を入れて調光で絞ったら、知らないうちに風俗営業の許可が必要な店になっていた——という話は、バーやダイニングの改修で実際に起きます。この記事では、3つの法律がそれぞれどこにかかるのかを分けて整理します。

この記事の立ち位置
法令の数値と考え方を整理したもので、個別の営業が許可を要するかどうかの判断ではありません。 照度の測り方も、最終的には所轄の警察署・保健所の運用によります。 設計を確定する前に、必ず所轄に確認してください。

飲食店の照度は、3つの法律から別々に縛られる

工場なら労働安全衛生規則、事務所なら事務所衛生基準規則、というように、ふつうは1つの法令を見れば済みます。飲食店だけは、目的の違う3つが同時にかかります。

何のための規制か根拠向き
衛生(食品を安全に扱う)食品衛生法の営業許可・施設基準(自治体の条例)下限(明るくする)
働く人(厨房の作業)労働安全衛生規則 第604条下限(明るくする)
風俗営業かどうかの線引き風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)暗くしすぎると許可が要る

設計で困るのは、3つ目だけ向きが逆だからです。衛生と労働安全は「これ以上明るく」、風営法は「これより暗くすると別の営業になる」。この2つに挟まれた幅の中で設計することになります。

① 衛生の側 — 調理場は100ルクス以上

飲食店営業の許可を取るときに見られる施設基準に、照明設備の規定があります。調理場(作業場)の作業面で100ルクス以上を確保できる照明設備を設けること、という形で書かれているのが一般的です。

場所基準性格
調理場・作業場100 lx 以上営業許可の施設基準
客席(この基準では定めが無い)

この100ルクスは、自治体の条例に書かれています。食品衛生法そのものではなく、各都道府県・保健所設置市の食品衛生法施行条例や営業施設基準です。数値や書き方が自治体で違うことがあるので、出店する場所の条例を必ず開いてください。「食品衛生法で100ルクスと決まっている」と見積書に書くと、根拠を示せなくなります。

なお、この100ルクスは衛生上の最低線であって、調理をするのに十分な明るさではありません。実際の設計は次の②で決まります。

② 働く人の側 — 労働安全衛生規則 第604条

厨房はそこで人が働く作業場なので、労働安全衛生規則 第604条がかかります。作業の区分は3つです。

作業の区分基準(作業面)厨房でいうと
精密な作業300 lx 以上盛り付け・飾り切り・仕込みの細かい作業
普通の作業150 lx 以上一般的な調理・洗い場
粗な作業70 lx 以上食材の保管庫・裏動線・搬入口

衛生の100ルクスより、こちらの150ルクスのほうが高くなります。厨房は150ルクス以上で設計すれば、両方をまたいで満たせます。盛り付け台のような細かい手元は300ルクス、と分けて考えてください。

客席は604条の対象外ではありません。ホールスタッフが注文を取り、配膳し、会計をする場所でもあります。ただし実務上は、客席の明るさは次の③の制約のほうが先に効きます。

③ ★暗くしすぎる側 — 風営法(ここが飲食店だけの話)

ここが、飲食店の照明でいちばん知られていない規制です。客席を一定より暗くして営業すると、その店は風俗営業になり、許可がないと営業できません。

営業の形照度意味
ふつうの飲食店客席が10 lx 超風営法の許可は不要
低照度飲食店(風営法2号営業)客席を10 lx 以下にして営む許可が必要
低照度飲食店(許可を取った後)客席は5 lx 超を保つこれ以上暗くしてはいけない
接待を伴う飲食店(1号営業)5 lx 以上許可に加えて照度の下限がある
深夜酒類提供飲食店20 lx 以上深夜に酒を出すなら暗くできない

数値は風営法および国家公安委員会規則で定める基準として公開されている解説を複数突き合わせたもの(2026年9月確認)。条文の適用と測定の運用は所轄の警察署の判断によります。

「10ルクス以下にすると許可が要る」「許可を取っても5ルクス以下にはできない」。この2つは向きが逆に見えますが、別の話です。10ルクスは風俗営業に当たるかどうかの線、5ルクスは風俗営業になった後に守る下限です。つまり5〜10ルクスの間で営業するには許可が要り、5ルクス以下は許可があっても営業できません

どこで測るのか

測るのは客が実際に利用する位置です。テーブルの上、カウンターの上など、客が座って飲食する面で測られます。しかも店内でいちばん暗いところが見られます。

ここが設計で効きます。平均照度が20ルクスあっても、いちばん奥のボックス席だけ8ルクスなら、その席が基準に当たる可能性があります。照明の配置で明るさの差が大きい店ほど危ない、ということです。

調光で絞ると、この線をまたぐ

LEDテープライトと調光器で間接照明を入れる改修では、施工後に店側が調光で絞ります。ここで線をまたぐことがあります。

10ルクスがどのくらいかというと、夜間の屋外の防犯照明で「4m先の人の姿勢は分かるが、誰かまでは分からない」とされるのが1〜5ルクスの世界です。10ルクスはその少し上で、メニューの文字を読むのは相当つらい明るさです。数値そのものの感覚は何ルクスはどれくらい?の早見表で確かめてください。

引き渡し時に決めておくこと。調光つきで納めるなら、絞りきった状態で客席がいくつになるかを実測して、店側に数字で伝えてください。「この目盛りより下げると10ルクスを切ります」と言えるようにしておくのが、いちばん確実な予防になります。調光の下限をあらかじめ機器側で止めておく方法もあります。

「暗く見せる」のと「照度を落とす」は別

飲食店で求められているのは、たいてい暗さそのものではなく落ち着きです。これは照度を下げなくても作れます。

やり方照度への影響効果
全体を一様に暗くする下がる(線をまたぐ)落ち着くが、メニューが読めない
天井を暗くし、テーブル面だけ照らすテーブル面は保てる輝度差で落ち着きが出る
色温度を下げる(2700K前後)変わらない暖かく見える
光源を隠して間接照明にする配光しだいまぶしさが消えて落ち着く

輝度差で落ち着きを作る考え方は、ホテルのラウンジと同じです。コーブ・コーニス照明の納まり寸法に、テープを隠す立上りの寸法をまとめています。

LEDテープライトが飲食店で効く場所

天井の主照明の代わりにはなりませんが、飲食店では使いどころがはっきりしています。

場所使い方ねらい
カウンター下・幕板足元へ向けて足元の安全を確保しつつ、天井を暗く保てる
バックバー・棚板棚下から手前へボトルを見せる。店の顔になる
天井コーブ天井へ向けてまぶしさなしで全体を持ち上げる
壁面・アート垂直面を照らす奥行きが出る。客席の照度を上げずに明るく見える
段差・スロープ蹴込みに低く暗い店でも転倒を防ぐ

先に「できないこと」から。当店で扱っているテープライトはIP20の屋内専用で、防水・防湿仕様ではありません。厨房内の水がかかる場所、洗い場、食洗機まわり、屋外のテラスには使えません。油煙がかかる場所も、放熱が落ちて寿命が縮むので避けてください。屋外テラスの等級の考え方はIP65とIP67の違い早見表にまとめています。

飲食店のLED化 チェックリスト

#確認すること見る場所
1出店する自治体の営業施設基準(調理場の照度)を開いたか都道府県・保健所設置市の条例
2厨房の作業面を150lx以上で設計したか(衛生100lxより高い方に合わせる)調理台・洗い場
3盛り付け・仕込みの手元を300lxで見たか盛り付け台
4客席のいちばん暗い席で照度を測ったか(平均ではなく最低)奥のボックス・壁際
5その最低照度が10lxを超えているかテーブル面・カウンター面
6深夜に酒を出す店なら20lx以上を確保したか同上
7調光を絞りきった状態の照度を実測し、店側に数字で伝えたか引き渡し時
8調光の下限を機器側で止める必要がないか検討したか調光器の設定
9水がかかる場所・油煙のかかる場所にIP20のテープを入れていないか厨房・洗い場・テラス
10照度の運用について所轄(保健所・警察署)に確認したか設計を確定する前

まとめ

飲食店の照度は、下からと上から挟まれています。

場所下限上限にあたるもの
調理場・厨房衛生100lx/安衛則150lx(精密な作業は300lx)特に無し
客席(ふつうの飲食店)10lx以下にすると風営法の許可が要る
客席(低照度飲食店・許可あり)5lx 超
客席(深夜に酒を出す店)20lx 以上

厨房は150ルクスで設計する。客席はいちばん暗い席で測って10ルクスを切らない。調光つきなら絞りきった状態を実測して店側に渡す。この3つを外さなければ、照明が原因で許可の話になることはありません。

よくある質問(FAQ)

飲食店の照度は法律で決まっていますか?
3つの別々の法律から縛られます。①衛生の側=飲食店営業の許可の施設基準で、調理場(作業場)の作業面100ルクス以上を確保できる照明設備を設けること(各自治体の食品衛生法施行条例・営業施設基準に書かれています)。②働く人の側=労働安全衛生規則 第604条で、精密な作業300ルクス以上・普通の作業150ルクス以上・粗な作業70ルクス以上。③風営法=客席を一定より暗くすると風俗営業になり許可が必要です。①②は下限(明るくする方向)、③だけ「暗くしすぎると許可が要る」という逆向きの規制です。
客席を暗くすると許可が必要になるのはなぜですか?何ルクスからですか?
客席の照度を10ルクス以下にして営む飲食店は、風営法でいう低照度飲食店(2号営業)に当たり、許可がないと営業できません。さらに許可を取った後も、客席は5ルクス超を保つ必要があります。つまり5〜10ルクスの範囲で営業するには許可が要り、5ルクス以下は許可があっても営業できないことになります。接待を伴う飲食店(1号営業)は5ルクス以上、深夜に酒類を提供する飲食店は20ルクス以上が必要です。実際に許可が要るかどうかの判断と測定の運用は所轄の警察署によりますので、設計を確定する前に必ず確認してください。
照度はどこで測られますか?平均でよいのですか?
客が実際に利用する位置で測られます。テーブルの上、カウンターの上など、客が座って飲食する面です。しかも平均ではなく、店内でいちばん暗いところが見られます。店全体の平均が20ルクスあっても、奥のボックス席だけ8ルクスなら、その席が基準に当たる可能性があります。照明の配置で明るさの差が大きい店ほど注意が必要です。
調光器で絞れるようにして納品しても大丈夫ですか?
調光そのものは問題ありませんが、引き渡しのときに絞りきった状態の客席の照度を実測して、店側に数字で伝えてください。「この目盛りより下げると10ルクスを切ります」と言える状態にしておくのが、いちばん確実な予防になります。調光の下限を機器側であらかじめ止めておく方法もあります。施工した側が数値を把握していないまま引き渡すと、後から運用で線をまたいでも誰も気づきません。
厨房は何ルクスで設計すればよいですか?
150ルクス以上で設計すれば、衛生の側の100ルクスと労働安全衛生規則の普通の作業150ルクスの両方を満たせます。盛り付け台や飾り切りをする手元は精密な作業に当たるので300ルクスで見てください。なお当店で扱っているLEDテープライトはIP20の屋内専用で防水・防湿仕様ではないため、洗い場・食洗機まわり・水がかかる場所には使えません。油煙がかかる場所も放熱が落ちて寿命が縮むので避けてください。

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